種類株式
会社法では、会社の規模に応じて経営を自主的に決定できるよう定款自治に委ねるところが多くあります。その定款自治の代表的なツールとして、株式の内容や株主の権利が普通株式とは異なる9種類の種類株式の発行を認めています。種類株式を正しく活用すれば、会社が抱えている資金調達、事業承継、持株比率、株主の相続等の問題が解消できます。
黄金株と事業承継
会社創業者が事業承継で株式の大部分を承継者に譲渡しようとするとき、会社の重要事項の決定について関与できるように株式の一部を拒否権付株式(黄金株)とすることができます。
例えば、発行済株式500株のうち1株のみは譲渡せずに、当該1株を拒否権付株式にして、会社の重要事項に係る決定に関与できるようにし、会社支配を維持することができます。
ただし、拒否権付株式を有する株主(以下「黄金株株主」。)が意思決定できないようなことになると会社運営ができなくなります。
そのような場合に備えて黄金株株主が万一の場合は拒否権付株式を会社が取得できるよう、取得条項付株式としておくことも必要でしょう。
配当優先株式の発行
第三者に出資してもらう場合に、交付する株式を配当優先株式とすることがあります。次のような流れで手続きします。
①種類株式発行会社とするための定款変更
②配当優先株式の発行決議
③普通株主による種類株主総会で上記①②の決議
④取締役会で割当決議
⑤出資者から引受申込及び払込
⑥配当優先株式の発行
⑦登記申請
全株取得条項付種類株式で完全子会社に(スクイーズアウト)
少数株式を保有している個人株主を排除し、100%子会社にするための手法として全株取得条項付種類株式を利用することがあります。
①種類株式発行会社とするための定款変更、
②発行済普通株式を全株取得条項付種類株式とする定款変更、
③②の全株取得条項付種類株式を取得する決議
取得と引換えに交付する株式は少数株主は端株主となるように対価を定め、1株未満の株主には金銭を交付
以上を同一の株主総会兼種類株主総会で行い、これにより完全子会社とすることができます。
属人的種類株式を導入して事業承継
会社創業者がその子に事業承継したいとして株式の大部分を子に譲渡しようとするとき、会社の重要事項の決定権はまだ自己が保有しておきたいような場合、発行済株式500株のうち1株のみは譲渡せずに、当該1株の議決権の数を例えば1000個とするという議決権に関する定めを定款にすることができます。これを属人的種類株式といいます。この属人的種類株式については、定款に定める必要がありますが登記の必要はありません。
優先株式・劣後株式
剰余金(会社の利益)の配当及び残余財産(解散等によって事業を撤退する際に残った財産)の分配に関して、定款に定めることにより、普通株式に優先又は劣後する種類の株式を発行することができます。
優先株式の活用場面としては、会社経営に口を出すことよりも投資が目的であるような出資者に対して、議決権制限株式と組み合わせるなどして優先配当株を 利用することで、経営者の議決権割合を下げることなく資金調達が可能となります。優先配当株であれば配当に関して他の普通株式より優遇されるため、その会社への投資にインセンティブを与えられ、普通株式よりも高い価格での発行も可能となり、より多くの資金を調達することができます。
また、従業員持株制度など、会社に利益が出たときに、従業員にも利益を配分する仕組みをとれば、従業員にインセンティブを与えられ、従業員のモチベーションも上がり、経営者と従業員が一体となって会社の発展に向け努力する体制を作ることができます。
定款に定めたときに登記も必要です。
議決権制限株式
株主は、原則として1株式1議決権を持っていますが、この議決権を制限する株式が議決権制限株式です。
すべての事項について議決権を制限することも、一定の事項(例えば、役員の選任等)について議決権を制限することも可能です。
議決権制限株式は、普通株式に比べて株主の重要な権利が制限されるため、経営参加に興味のない投資家のニーズに合わせて、資金調達の場面で活用することができます。
また、株式を議決権のある株式と議決権のない株式に分け、議決権のある株式を後継者に、議決権のない株式を後継者以外に相続させると遺言で指定しておくことで、経営者の相続による経営権の散逸や混乱を回避することができ、経営が安定します。
譲渡制限株式
株式の譲渡制限は、会社にとって好ましくない第三者が株主になって、会社運営を阻害することを防止する趣旨(経営権の維持)で認められたもので、上場会社を除くほとんどの会社が譲渡制限を設けています。
譲渡制限株式には会社形態の区分として大きな意味があります。会社法においては、すべての株式に譲渡制限が付いている会社を「非公開会社」とし、1株でも自由に譲渡できる株式を発行できる会社を「公開会社」として区分しています。
会社の機関設計やルールにおいて、非公開会社と公開会社では異なる取扱いがなされ、非公開会社の方が、より定款自治の拡大を図ることができるようになっています。
また、株式の種類ごとに譲渡制限を設けることもでき、例えば「拒否権付株式、いわゆる黄金株」など特殊な目的をもった株式について敵対的な株主に渡ってしまうことや分散することを防ぐといったことができるようになりました。
譲渡制限を設けるには株主総会の特殊決議をもって定款に定め、かつ登記する必要があります。また、株券発行会社においては株券提供公告が必要な場合があります。
取得請求権付株式
取得請求権付株式は、ある種類の株式又は発行するすべての株式の内容として定めることができ、あらかじめ定款で定めた期間中であれば、株主が欲するときに投資したお金の回収が図れるように設計されています(ただし、取得財源については一定の制限があります)。 株主が投下資本を回収しやすい株式といえるので、普通株式に比べて高い価格で発行でき、より多くの資金を調達することも可能となります。会社に株式を売渡す際の対価については、現金のほか、他の種類の株式、社債、新株予約権など、定款で柔軟に定めておくことができます。
取得条項付株式
取得条項付株式は、ある種類の株式又は発行するすべての株式の内容として株式発行会社が一定の事由が生じたことを条件として、株主の同意無しに、当該株式を取得することができる株式です(ただし、取得財源については一定の制限があります)。
発行会社が株式を取得する際の対価については、現金のほか、他の種類の株式、社債、新株予約権など、定款で柔軟に定めておくことができます。
全部取得条項付株式
2種類以上の種類株式を発行する株式会社が、そのうちの1つの種類の株式の全部を株主総会の特別決議によって有償又は無償で取得できる株式です。
定款に上記の旨を定め、その登記が必要です。
拒否権付株式
いわゆる黄金株といわれる株式で、事業承継(株式譲渡)を進めつつ、会社の重要事項に係る意思決定に関与し、会社支配を維持することができます。
属人的種類株式
公開会社でない(全部の株式に譲渡制限を設けている)株式会社は、株主総会における議決権に関して、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定めることができます。
例えば、「株主甲某が所有する株式については、1株につき100個の議決権を有する。」など。
属人的種類株式の場合、定款に定める必要がありますが、登記は不要です。